地域だからこそ見える「見えにくい課題」

2022.07.14 働き方堺市

アクションリサーチをはじめるにあたって

泉北ニュータウンでは、子どもたちの「見えない孤立」を抱える子どもたちが少なくありません。例えば、コロナの影響で在宅で過ごすことが社会では普通になり、また同時に全国で不登校が増加し、デジタルデバイスの普及により一人で過ごすことが苦痛ではない環境が整いつつあります。また、その環境が充実する家庭の中には家、学校、地域にも居場所がない、悩みを抱える家庭では、孤独を抱える子どもも少なくありません。

未来を担う泉北ニュータウンの子どもたちから、貴重な体験機会が奪われていないか 子どもを親や教育関係者だけでなく地域全体で育てたい

そういった思いから、公益財団法人泉北のまちと暮らしを考える財団は、設立前2018年から、孤独を抱える環境への対応を議論してきました。また、「泉北ニュータウンの孤立と地域をつなぐ助成事業」という助成プログラムを立上げ、地域の孤独を抱える当事者のみなさんへの支援を実施してきました。本事業ではその中でも、地域円卓会議や支援者インタビューを通じて、泉北ニュータウンにおいて、子どもたちの「見えない孤立」状態はどのように現状サポートされていて、どのような課題があったのか、意見を集めて問題を整理してきました。またその解決方法についても検討してきました。

同時に、子どもたちを泉北ニュータウン全体で支え、孤独を抱える子どもたちを保障する仕組みをつくるべく、「泉北ニュータウン・子どもの見えない孤独孤立基金事業」を立ち上げました。当事業は、実際に支援を行なう現場の方と支援モデルを調査を行なうアクションリサーチ型の事業です。そのために、地域だからこそ見える「見えない課題」への解決アプローチとしての見えない孤立を見守るケースマネジメントのモデル化のために、内閣官房 孤独・孤立対策活動基盤整備モデル調査・孤独・孤立対策活動基盤整備モデル調査業務・関西ユニットを原資に、2つの事業の協力を得て、主に地域での子どもの見守り方を行いながら、基金の立上げと運営に取り組んできました。

本書では、「見えない孤立」について、円卓会議に参加した、視野がさまざまなステークホルダー(利害関係者)からの意見やモデル事業団体による成果報告や当財団が独自におこなった調査から、「この、問題に対して、地域社会ではどのような支援が可能なのか」について具体的な考察を行いました。本書を通じて、泉北ニュータウンに「見えない孤立」が存在することを知っていただき、問題解決への道筋をみなさんと作っていきたいと考えています。

地域だからこそ見える泉北ニュータウンの「見えない孤立」とは?

当財団では、さまざまな社会課題に向き合い、支援を必要としている方々やその方々の支援を行なう団体から相談を受けています。その中で、コロナ禍から着目している問題の一つが「地域だからこそ見える見えない孤立」です。

こんな問題があります!

■居場所に行かない・来れない子どもたち

泉北ニュータウンには、子どもの居場所を運営するネットワーク組織・子ども応援プラットフォーム「ココ×カラ」が存在します。20団体が泉北ニュータウンの地域内で活動をしています。そういう意味では、子どもの居場所などで子どもたちと身近に接する活動は地域内に育っていますが、居場所だけでは解決できない家庭内の支援のニーズ、または子どもたちの放課後の過ごし方が多様化しています。地域では、居場所に行かない・来れない子どもたちが一定存在します。その背景には、スマホやゲームが普及し、なんとなく時間を消費することができるためと言った声があります。

■不登校の増加

また居場所が充実している一方で、コロナ禍を経験した泉北ニュータウンの位置する堺市では不登校が倍増しています。平成29年度不登校児童179人、中学生596人でしたが、令和3年度児童632人、中学生878人と倍増しています。(堺市教育委員会公表資料より)。特に懸念しているのは、見落とされがちな家、学校、地域に居場所がない「見えない孤立」の当事者がいるのではないかという点です。

■広がる体験格差

子どもの貧困が日本では広がっていると言われています。メディアでも7人に一人の子どもたちは貧困状態にあるという言葉がニュースを賑わせています。その中でも、不登校やステイホームの加速による「体験」の不足が、子どもの学習意欲や主体性などの社会的情動的スキルに影響をもたらすという説も定説化しています。特に、家にいることを選ぶ、または居場所を選ぶか選ばないかは、現在では家庭や本人の「自己責任」化してしまい、泉北ニュータウンの現状は、子どもたちに大きな体験格差を放置していると言わざるを得ません。

問題解決に向けた取り組み

居場所は失われやすいからこそ
存在が地域に見えにくてもつながっている安心感のある社会に

当財団としては、こども食堂、小地域ネットワーク活動・校区福祉委員会などの存在は認識しています。ただし、学校と家庭という社会資源がある中で、居場所は選ぶべき自由があるから故に、つながらないことが自己責任であり、なにか問題を抱えても地域で見えにくい孤立状態の当事者は、自己責任のまま放置されているのではないか?ということ問題に、一石を投じたいと考えています。

私たちが目指すのは、「船に穴が空いたとき、水を掻き出すことも重要だけれども無理だったら違う船に移るということも自分が沈まないためには必要なことである」という例えもありますが、「居場所を中心に子どもの見守りを地域で行なうのではなく、子ども中心に、子どもがSOSを地域に発信できる環境を担保すること」です。自己責任で失われがちな子どもの暮らしを守る仕組みを地域や居場所運営者だけでなく、行政へも政策提言を行っていきたいと考えています。

図 「見えない孤立」は何が問題なのか?

社会にはたくさんの資源(サポートする主体)が存在します。しかし、つながっていないと、途端に社会や地域では見えない存在になります。

泉北ニュータウンの子ども「見えない孤立」基金のめざすところ

泉北ニュータウンの子どもたちの「見えない孤立」を解決につなげる足がかりとして、本事業では、子どもの居場所運営の直接支援ではなく、モデル地域おける活動を通じた、子どもケースマネジメントモデルのモデル化と、地域に存在する支援のあり方を検討しました。

モデル地域における活動を通じたノウハウの整理

モデル地域における活動を通じて、居場所運営に加えもう一つ重要なアプローチが、地域で子どものSOSをキャッチする仕組みの存在でした。そのアプローチ方法を「子どもケースマネジメント」と設定してみました。

子どもケースマネジメントでは、子ども自身がどう過ごしたいのかなどの実現したい姿を「ウェルビーイングプラン」として据えて、地域の中で居場所や日常生活の中で、当事者の生活全般に渡るニーズと、すでにある社会資源への接続を通じて、複数の支援メニューを組み合わせるための調整、支援への接続を確保する機能として定義しました。また、子どもケースマネジメントとして実施するケース会議を「実行会議」という手段として実証実験を行いました。

さまざまな支援のあり方を検討

当財団では、事業期間が終了した後も子どもたちへの支援が続けられるように、「基金」と名付け、地域の多くの利害関係者の参画が叶うような設計をめざした独自の仕組みも作りました。将来的には助成金だけではなく、地域住民や企業などからの寄付も原資として、基金を運営して域たいと考えています。(実際に2023年度は15万円ですが基金による寄付を集めることができました。) 同時に、寄付以外の支援方法として、行政施策で活用可能な資源が無いか相談の実施、民間企業からの支援などについても検討を進め、具体的な提言を行っていく予定です。

「見えない孤立」による実践調査報告

地域円卓会議が地域のほっとけないをつなぐ

本事業ではモデル地域での実践のモデル化だけでなく、多様な視点を交えた課題を深める取り組みを行いました。活用した議論手法は地域円卓会議という手法です。議題を「コロナと通じて子どもたちの過ごし方はどう変化したのか?」として開催しました。議論のための論点提供の際には、「地域には多様に子どもを取り巻く支援はたくさんあると言われている。しかしコロナ禍を経験した地域では不登校が倍増している中、見落とされがちな家にも学校にも地域にも居場所がない「見えない孤立」が広がっている。課題を共有し、どう向き合うべきか?」として議論を行いました。

地域円卓会議とは?

 問題を学ぼうというフォーラム形式ではなくて、話題提供する人がいて、その話題提供を受けて、自分たちの問題意識をまずは共有します。次にサブセッションとして会場に集まった仲間たちでさらにグループワークをします。グループワークでは、意見を出し合って、問題を掘り下げたり、新しい解決方法について私たちは何をしますかという問いを、みんなの知恵を集めて解決する方法として問題の共有に活用されます。

 いくつか工夫しているポイントがあります。テーマ決めから重視します。具体的なテーマ決め、テーマの大きさを地域課題解決につながる解像度を高め「食べられるサイズ」にすることが重要ですと語られています。

 また、地域の「困り事」を、単独あるいは二者間で協議するのではなく三者以上のステークホルダー(利害関係者)で、意見交換をしていきます。その結果、様々な事実・視点・評価・事例が提供されるため、地域の「困り事」への理解は研ぎ澄まされ、「社会課題」へと昇華していきます。ここでの着席者は、テーマに基づき決定します。同時にテーマに関心のある方は誰でも参加できるオープンな会議として開催します。

「見えない孤立地域」円卓会議について

1回目円卓会議

テーマ コロナと通じて子どもたちの過ごし方はどう変化したのか?各現場の報告から考える

議論内容

地域に居場所の中学生へのアプローチの現状把握:地域には多様に子どもを取り巻く支援はたくさんあると言われている。しかしコロナ禍を経験した地域では不登校が倍増している中、見落とされている、家にも学校にも地域にも居場所がない「見えない孤立」が広がっている。 子どもたちの現状と模索:家にも学校にも、地域の居場所にも居場所がない特に中学生に不登校の状況やデバイスが当たり前になった中で、何が起こったか、子どもたちの自由はどこまで制限されたかなど、現場からの報告に耳を傾け、そこから学ぶべきこと、改善にむけての方法はないかの検討を実施した。

2回目円卓会議

テーマ 見えない孤立を地域で子どもを真ん中に置いたアプローチを通じて得られた支援モデルはどうあるべきか? 議論内容  泉北ニュータウンの子ども及び保護者の抱える課題意識を問いとして投げかけ、現場の課題意識を、中学生の食堂「ちゃべり場」及び、フリースクールによるご飯付き学習支援居場所「宿題カフェ」にて見えている課題を共有した。 その後、地域には多様に子どもを取り巻く支援はたくさんあると言われている。しかしコロナ禍を経験した地域では不登校が倍増している中、見落とされている家にも学校にも地域にも居場所がない「見えない孤立」が広がっていると相談を受けているケースなどを会場から発題を受けた。それぞれの孤立への向き合い方について、フォーラムではなく、みんなで意見を出し合う「見えない孤立地域円卓会議」を通じて課題意識の共有を行った。家にも学校にも、地域の居場所にも居場所がない特に中学生や孤立状態に有る子どもたちに何が起こったか、子どもたちの自由はどこまで制限されたかなど、現場からの報告に耳を傾け、そこから学ぶべきこと、改善にむけての方法を検討した。

3回目 円卓会議

テーマ 見えない孤立を地域で子どもを真ん中に置いたアプローチを通じて得られた支援モデルはどこにつながり、多様な主体の参加はどうあるべきか?

議論内容 

地域に居場所の中学生へのアプローチのふりかえり:地域には多様に子どもを取り巻く支援はたくさんあると実感できた。しかし見落とされている家にも学校にも地域にも居場所がない「見えない孤立」が広がり、地域福祉における社会資源と言われる校区福祉委員会、主任児童委員、自治会にはいっていない情報(制度からこぼれ落ちている当事者の姿)が居場所を開くことで、子どもだけでなく、子育て当事者からも集まる仕組みができた。

予防の観点から日頃からの観察を通じたSOSのキャッチするタイミングを見据えた孤立への向き合い方について、地域実行会議を通じて課題を共有し、その対策方法を議論した。 子どもたちの現状と把握:家にも学校にも、地域の居場所にも居場所がない特に中学生に何が起こったか、子どもたちの自由はどこまで制限されたかなど、現場からの報告に耳を傾け、中学生の実態調査設計を議論しケースマネジメントにつなげるための視点を議論した。

泉北ニュータウンの子ども「見えない孤立」解決に向けての提案

提案1 基金の設置

当財団では、子どもを中心に地域を見守る資金造成の選択肢として泉北ニュータウンの子ども見えない孤立基金しました。

本基金は「支援がはじまる前に、地域でできることを検討し、実施されることが、予防するという観点では重要である」という視点から地域で支えるべき公益事業として設置します。

本基金にはどのような立場の方も寄付を行なうことができ、寄付者それぞれに対して当財団から、税額控除・所得控除が可能な領収書を発行します。寄付者は、この領収書を確定申告に提出すれば税制優遇が受けられるため、「寄付しよう」という気持ちの後押しにつなげることができます。

提案2 地域での子どもケースマネジメント運営の実施

子どもの「見えない孤立」は、地域ではそもそも発見されにくいことは、円卓会議やモデル団体とのノウハウ整理の中で分かってきました。その中でうまく地域で見えない孤立としてサポートできる体制につながった事例では、居場所を運営する代表だけでなくボランティア、近所の保護者が日常で感じる「ほっとけない」「なんとなく気になる」「子どもからこんな話を耳にした」という視点がとても重要でした。

そのうまくいったケースを図示したのが下記の図です。

円の最初に位置するのが「情報のキャッチ」です。その後、経過観察として様子を見守ったり、周辺の保護者や子どもにヒアリングを行い、情報を集約します。その後、状況がどういう状況なのかケース会議を行い「評価」を行います。私達が地域で子どもを見守ることで、一番大切なのは、見えない孤立状態から深刻な状況になった時に、すぐに発見できることにつながる日常的な見守りです。だから評価の結果、毎日あいさつしようといった場合もあります。しかし、地域でできることを検討し、実施されることが、予防するという観点で意識します。

その後、ケースマネジメントとして実行会議を開催し支援の体制を支援者メンバーと会議を行います。開催方法は巻末付録でご紹介します。

実行会議では、子ども自身がどう過ごしたいのかなどの実現したい姿を「ウェルビーイングプラン」として据えて、地域の中で居場所や日常生活の中で、当事者の生活全般に渡るニーズと、すでにある社会資源への接続を通じて、複数の支援メニューを組み合わせるための調整、支援への接続を確保する機能として定義しました。また、子どもケースマネジメントとして実施するケース会議を「実行会議」という手段として実験を重ねてきています。

これらの一連の取り組みが「実行会議」です。地域で考えて実行に移すから、「実行会議」とシンプルに読んでいます。

提案3 「見えない孤立」は協働で支えよう

子どもケースマネジメントを支える実行会議で考える、子どもたちを取り組む地域の大人が見えない孤立に向き合うことは重要です。そのためには実行会議のメンバーは、地域の自治会の方、地域包括支援センターの職員、小地域ネットワーク活動・校区福祉委員会、社会福祉協議会ケースワーカーなど、深めたい検討ケースに応じて参加協力を促し、多様な目線議論を掘り下げることが重要です。子どもたちのウェルビーイングプランの実現方法を考えるだけでなく、お互いの視点や課題意識をともに学び、連携して行動することによって子どもたちの構造的な格差を生む状況の改善を目指す、多様な人が関わるとさまざまな組織によるネットワーク会議になることが重要です。

また、その結果、地域に見えない孤立への向き合い方の変化を達成するために、欠かせないのは、見えない孤立状態の子どもたちを支える体制には行政職員の存在も欠かせません。市民だけでできることには限界があり、行政施策の力を借りることが重要です。

実行会議は例えばヤングケアラーとして兄弟を支える地域の中学生が不登校状態にある子どもの見守り方法を考える際、不登校だけに視点を当てると見えてこない視点として、親の精神疾患と、家庭像に目を向けると、生活困窮者支援、教育委員会の不登校支援、親の精神疾患というケアと、他分野にまたがる課題が見えてきます。その際に行政の施策でヤングケアラーの支援制度の可能性、母親支援ではなく子ども支援で介入できるなど、サポート体制が多様に構築できます。

地域で積み重ねる実行会議は、見えない孤立を社会や地域住民に課題意識を共有するだけでなく、行政が参画することにより今後の政策立案の参考ケースにもなり、ケースから政策が生まれることで地域にとって必要な支援の形が生み出されることにもなります。市民のほっとけない!が、子どもを中心に据えた仕組みが実現します。

提案4 地域のケースマネジメントの実践が暮らしも地域にも変化を生みます

暮らしに近い場所での実行会議を通じた課題解決の取り組みは、広域での社会的周知を広げるための中間支援組織による課題の発信を組み合わせるだけでは弱いです。

子どもケースマネジメントを通じて設定した内容を実施することから始まります。

上図は、提供3を立体的に図示しました。このように地域の居場所でのPDCA、地域での実行会議でのPDCA、その結果としての行政施策のPDCAが連鎖するようになります。

そのケースワークを通じて得られた課題をさらに実行会議で共有し、その問題対処を通じてこぼれ落ちない支援スキームを完成するには実行会議が欠かせません。

その結果、生活圏に近い課題解決のケースワークが地域の課題の「問い」となり、他地域でも同じ構造が起きているのでは?という問題意識が他の地域に広がります。

ケースワークを行うNPOだけでなく、中間支援組織だけでもなく、協働を前提に課題解決を進めるためのネットワークを前提とした地域内の課題解決の担い手を知り、つながることが重要です。

その結果下記のような子どもを中心に据えた子どもケースマネジメントが地域で生きるようになります。