夜に出歩く中高生たちの存在を知ったことがきっかけだった
現在、子ども食堂プロジェクト「宿題CAFE」という名称で、認定NPO法人キッズドアの「ごはん応援プロジェクト2023」の助成を受けて、子ども食堂と学習サポートをする泉北BASEについて、その近況を田重田勝一郎(たじゅうた・しょういちろう)さんから聞きました。
子ども食堂を運営するきっかけとなったのは、堺市南区で講演会をされた時に、 地域の校区の中学校の先生から聞いた話がきっかけだったと言います。
田重田さん「ご飯を食べるのも困っているし、夜に居場所がない子どもたちがいる。夜は仕事から帰ってきた親からネグレクトや虐待を受けていて、親との関わりが難しく、 夜に外を出歩くわけです。『夜の子ども食堂みたいな場所があればうれしい』と先生から聞いたのが最初のきっかけです。その段階ではまだ子ども食堂は自分たちで運営するつもりはなく、先生にもそう話したと思うんですが、徐々にその気持ちが変わっていきました。」
運営方法は見直しの時期かもしれない
泉北BASEでの子ども食堂は、現段階では小学生が多く、はたして彼らのために夜の居場所は必要なのだろうかとよくスタッフ内で議論していると語ります。
田重田さん「わたしたちの事業の根幹である学習会をメインにしたいけど、今、子ども食堂に集まってくるのは小学校低学年の子どもたちが多いです。そうすると、もちろん勉強もするけども、この年代の子どもたちって晩ご飯を食べたら寝るのが普通です。
親御さんたちも子どもたちもすごい喜んでくれているけれど、成長期の子どもたちにとって、この状況が果たして正しいのかなというところもすごく自分たちの中に疑問があって。4か月ほど継続している中で、少し見直しの段階にきているかもしれません」
宿題CAFEは登録制であり、公式LINEアカウントで登録し、面談の予約をして、泉北BASEで施設の案内も含めてなぜこの事業に取り組んでいるのか話した上で参加いただいているといいます。
田重田さん「子ども食堂あるあるですが、届いてほしいところにはなかなか届かない。少しずつ広がってはきているけれど、別に困っていないお子さんも多いのが現状です。いちおう『ひとり親の人が対象です』とは説明していますが、そういう家庭を優先するけれど、受け入れないわけではないので」
高校生ボランティアや地域のお母さんが大活躍
宿題CAFEは高校生のボランティアや地域のお母さんも手伝ってくれているそうです。
田重田さん「そのお母さんは同級生とか近所の子どもを集めて、自分の家を開いて勉強を教えるような活動をされていて、その方がいま、宿題カフェの一角で活動してくださっています。そのお母さんがすごいのは、次にやるべきことを提供できる人なんですよ。宿題とかがすぐに終わっちゃう子がいると、バーっと自分のファイルからプリントを取り出して、それをコピーして配ったりされます」
ここで、高校生ボランティアとして活躍する、卓球大好きマンこじまっちさんにも話を聞いてみました。
何かボランティアがしてみたいと思ってボランティア募集サイトで「城山台で宿題カフェ&子ども食堂の運営ボランティアスタッフ募集!」を見つけて応募したというこじまっちさん。
こじまっちさん「人と話すことが多く、責任も重いけれどやってみようと思いました。初めてきてくれた子どもさんとかに声をかけて話すように心がけています。誰かに教えられたわけではなく、1階のカフェの店員さんたちの様子を見よう見まねで覚えていった感じです。ここでボランティアをはじめてから、自分から行動するようになったと思います」
こじまっちさんが1階のカフェの店員さんたちと話していた店員さんのひとり、でんでんカフェのあんじー店長にも話を聞いてみます。
お腹いっぱいになると、信頼関係を築きやすい
冗談でアンジェリーナ・ジョリーですと言ったらあんじー店長と呼ばれるようになったという鈴木ゆみさん。
鈴木さん「夜遅くまで子どもたちがワイワイしていることは今の宿題CAFEの課題だけど、たぶん子どもたちが中学生ぐらいになったときに、年の差のある友だち同士みたいな、すごくいいコミュニティになって良い思い出になるだろうなと思っています。」
かわいそうな境遇に置かれている子どもたちを思い、ひとつひとつのエピソードを思い出すだけで涙ぐむ鈴木さん。具体的なエピソードは個人情報になるので伏せますが、お腹いっぱいになったら話せる話がある、と語りました。
鈴木さん「腹ぺこな状態で話すのと、お腹いっぱいになって信頼関係のある人と話するのは全然違うから。まずお腹いっぱいになって、ちょっと満たされてからだと信頼関係も築きやすい。ご飯は会話のきっかけになります」
当たり障りのない会話でも、毎日繰り返していくことで信頼が積み重なっていく。少しずつその子どもたちが置かれている状況を知り、すべてひとりでは解決できないことも、高校生ボランティアや地域の大人たちの力を借りて、より良くしていきたいと語ってくれりました。
しつけを教えている
田重田さんは続けます。
田重田さん「こんなことがありました。例えばガムの食べ方は知っているけれど、ガムの片付け方は知らない。だからどうするのかというと、その辺にペッと吐き捨てちゃうんです。周辺の店からのクレームで知りました。マナーが悪いとか悪さしてるとかじゃなくて、そもそも片付け方を知らない。片付け方を教えて、友だちにも伝えるように教えたら、少しずつトラブルが減っていきました」
宿題CAFEでは料理を運んで、食べ終わったらお皿も全部きれいに洗って返すところまでするそうです。
田重田さん「聞いてみると家でそんなことする子は1人もいないようで、ここに来てからやれるようになった子がいっぱいいます。でも、できれば僕らだけでなく、地域の人ちたちとともに子どもを育てていきたい。だから宿題CAFEは、 泉北BASEというこの場を提供するんだけども、将来的には、この周辺の地域のボランティアさんにたくさん入ってほしいと考えています。ゆくゆくは宿題カフェを運営したいと言ってくれる人を望んでいます」