茶山台団地を日本一多様な幸せを実現できる場所にしたい! 団地ライフラボが実践する3つのアイデアとは?

2023.01.10 NPO法人団地ライフラボ@茶山台お年寄りまちづくり子ども・わかもの泉北ニュータウンの孤立と地域をつなぐ助成事業見えない孤立

みなさんは団地生活の老後を考えたことはありますか? 堺市南区の茶山台団地では新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、これまで健康だった高齢者も引きこもる生活を余儀なくされ、落ち着いてきた現在、不健康な部分を訴える方が増えてきています。団地に済む後期高齢者の50%がひとり暮らしであり、認知症が増えている傾向があります。

少子高齢化が加速する団地に対して、今回お話を聞いたNPO法人団地ライフラボ@茶山台(以下、団地ライフラボ)は、地域の声、困りごとをみんなのアイデアで解決する環境をつくり、暮らしの身近な存在として、細やかな対応をしていこうと考えている団体です。代表の池田淳さんを中心に、前野美香さん、野津麻耶さん、成願大志さん、湯川まゆみさんに話を聞きました。

配達先の住人が亡くなったことがきっかけだった


湯川さん
茶山台団地でやまわけキッチンを運営している中で、お弁当の配達もしています。いつもお弁当を配達させてもらっていた方が亡くなったときの体験が団地ライフラボ発足のきっかけなんです。

けっこういろんなサポートが入っていたのでいろんな人たちが集まってきて、関東に住んでいるご家族に看取られて亡くなったんです。

ある意味では幸せな看取られ方だなと思って。そういう状況が茶山台団地の中で増えたらいいなと思って。やまわけキッチンの隣が空き室になっていて、そこに「まちの保健室」みたいな取り組みができれば、食をサポートするだけなくて、健康や住人をサポートできる状況がつくれると考えました。そんな状況をSEIN以外のグループがつくっていければと思って、まず池田さんに相談しました。

団地ライフラボの3つの柱


ーーー池田さんはどんな思いで団地ライフラボをはじめられたんですか?

池田さん
茶山台団地の高齢化が進んでいるので、健康状態を知ること=住民さんの状況を知る1番の指標になると考えました。

元々公社(大阪府住宅供給公社)の方で、大きな病院や大学と連携して「まちかど保健室」として取り組みを進めています。そのような取り組みとも連携しながら、そもそもそこに行けない、もっと社会的に孤立している住民さんにアウトリーチし、住民さんの日常を見守りながら、必要なら専門家に繋げる取り組みがしたいと思いました。そこで、看護師2人と元々介護職をされていた方などのご協力も得たので、 彼女たちを中心に保健室をつくって健康相談にのっていきます。今はやまわけキッチンに間借りしながら進めています。

湯川さん
10月中旬から動き始めて、11月から週2回やまわけキッチンにて住人さんとの関係づくりをするために食べに来てくださった住民さんと対話したり、お弁当を配達するために、住民さんのお宅に足を運んだりしています。

池田さん
3年後のゴールにソーシャル団地を生み出すために、3つの柱を準備しています。1つ目の柱が団地専属コミュニティワーカーの配置です。2つ目が担い手育成。3つ目がソーシャル団地整備事業になります。

1つ目の柱「コミュニティワーカーの配置」


ーーー1つ目の柱の団地専属コミュニティワーカーというのは、どんな人たちでしょうか?

池田さん
コミュニティワーカーとは、コミュニティソーシャルワーカーという専門職とは少し違う意味で捉えていて、本当に地域の人たちの中で働く人というイメージです。昔から困りごとはいっぱいあったけれど、ご近所付き合いでなんとかなっていた部分があります。そのご近所付き合いが、疎遠になった部分を支えてくれる人たちをコミュニティワーカーだ考えていて、そういう人たちを育てていこうと考えています。

例えばそれはお片付けを得意とする人が地域のために力を発揮することであったり、相談事業部に所属しているわけではないけれど、ケアマネという特技をもっている人が地域のための介護相談に乗るとか、建築のスキルを活かしてDIYの家と協力して地域の何かを修繕したり、そういう力を発揮してくれる人を探して育てていこうと思っています。

初期段階ではボランティアの方もいると思います。ご近所づきあいってボランティアだったと思うんですけど、それを全部ボランティアで負担していくと限界があるので、変な言い方ですけど、ご近所づきあいをビジネスにできひんかなという思いがあり、有償で作業量に見合った金額がお支払いできればと考えています。

2つ目の柱「担い手育成」


池田さん
2つ目の柱「担い手育成」の話につながるんですが、地域の仕事って属人化してるというか、「もう長らくその仕事をしています」ということが多くあるんで、1番は次の世代にこの思いを受け取ってくれる人を探したいんですよ。

今のプレーヤーも必要なんですけど、いつまでもこの仕事ができるわけじゃないので、次の担い手にバトンタッチするイメージですね。私が子ども会という文化を復活させたのもありますし、そういう仕組をつくれたらと考えています。

湯川さん
池田さん自身は茶山台にずっとお住まいの方なんですが、 元々福祉の仕事をされているし、たぶん地域にいかにつながるかみたいなことを考えている人なんですよね。

でも、実際地域では活動してなかったんですよ。PTAの会長になられた後、台風21号が襲来した際に、まわりのママ友はみんなメールとかLINEが来まくっているのに、パパたちには遠くの友だちからは連絡が来るけど、ご近所から全く連絡が来なかったことで、さらに孤独を感じて、ある晩ごはん会で「団地に友だちがほしい!」と言い出したんです(笑)

ーーー自治会と子ども会の間が何もないから難しいという話をされていましたが、他のまちではそんな状況があるということでしょうか?

池田さん
詳しいわけではないですが、ほかのまちでは子ども会があって、青年団があって、何人組があって、と段階があるんですが、泉北ニュータウン独特なのかはわかんないですけど、子ども会があって、その後、学校での関わりになって、地域との関わりがどんどん薄れていって、いずれまちを出て行ってしまうので、地域の会に入った経験がなければ自治会ってそもそも必要?となってしまうので、その間をつくりたいんです。

3つ目の柱「ソーシャル団地整備事業」


ーーーソーシャル団地とはどういうものですか?

池田さん
団地の中でみなさんの困りごとを解決できるような、いろんな事業が起きていたら、地域包括ケアシステムみたいなものをつくれないかと思っています。それをソーシャル団地と名づけているんですが、こんな夢を思い描いています。

イメージ図

団地の1階に銭湯をつくりたいです。高齢者からすると、団地の中にデイサービスセンターがあるような仕組みです。洗濯も干したりするのが面倒なので、ランドリー事業も仕事を生み出せるのではないかと考えています。

助成金事業が終了した時に、新しいデイサービスをつくって、これは今存在しない介護保険事業なんですが、サービスを受ける高齢者と提供者にわかれているところを、両方地域住民でまかなえたら、新しいデイサービスが生まれるんじゃないかと考えているんです。

ほかにも、お片付けのプロである前野さんのアイデアなんですが、片付ける前にそれぞれ棚卸しする際に、今は不要だけど、まわりにとっては価値のあるものがあるので、アップサイクル事業にならないかというアイデアをいただきました。

前野さん
捨てるだけって簡単だと思うんです。でも片付けられない方はたぶん捨てられない方だと思います。

愛着があったり、長年大事にしてきたから手放せないことで、どんどんものが溢れていって、特にお年寄りはそういう方がすごく多いと考えました。

池田さん
前野さんのInstagramのフォロワーが1万人いらっしゃる人で、団地に5人家族で住んでいらっしゃるんです。

池田さん
お風呂に関しては、団地の風呂に入らずに毎日銭湯に行っている方もいるので、銭湯を団地につくれないかと考えました。

成願さん
法律のハードルはありそうですが、目標としては実現したいと考えています。

ーーー資料にICTの活用と書いてありますが、これはどういうイメージですか?

池田さん
1番わかりやすいのはドアにセンサーをつけて、開いた、開いていないという情報を住民さんの同意を得ることで、見守りになると考えています。

ご家族が遠くて見守れないとなったときに、法人を信用してくださるのであれば合鍵をあずからせてもらって、何かあったときのために使わせてもらおうと考えています。山間地域とか過疎化が進んでいる地域ではよく聞く話ですが、約900世帯の団地で導入されたらこれが初めてのケースになるでしょうね。

成願さん
池田さんがよく言うんですが、誰かの善意にすがっている時代はもう終わったんじゃないかってよくおっしゃっていて。

池田さん
本当に僕もずっと団地で住んでいるんですけど、昔は下の階の親御さんに何時間も見てもらってたりとか、両親が留守にするから夜までいてもらったということが普通にあったし、それがなくなっている理由もわかるんです。関係性が続くものではないので、そういう状況をつくれる組織が必要と思いまして、もしかしたら自治会がそういう機能だったのかもしれないけれど、自治会も疲弊しているので、NPOとか団体が運営できればと考えています。

善意のある人が全部自分で抱え込んで、担い手がいないからずっと抱え込んで、その人がいなくなると、「これ誰が何やってたん?」となる部分が非常に多くて、そういう状況を変えていくために、というところがあります。

将来の展望


ーーーどんな将来を思い描いておられるんですか?

野津さん
今まで介護の仕事をしてきたのでその経験から感じることですが、「あの人は介護保険を使ってデイサービスに行っているからなあ」「あの人も病気したしなあ」とかそういう状況になると少し阻外感が生まれるんです。このまちにいれば、まあいっかと思えて安心できるように地域になればと思っています。

出産前は大阪市に住んで、医療法人の職員として町の相談室もしていたんですが、自治会の人から「何やってんの?」とか、何かイベントをしようと思っても、「じゃあ怪我したらどうすんの?」と言われて、自治会も何かしてほしいけれど、いざ計画を立てると守りに入って動けないことが多かったんですが、地域に入ればきっといろんな声も拾いやすいと思っています。

ーーー相談しづらいということでしょうか?

野津さん
「専門職がいます」と言ってもハードルが高くて、「相談したら病院に行かなければいけないのでは」と思ったり、「介護を受けないといけないのか」というふうになってしまう。

専門職として関わるのではなく、茶山台では一住民として関われるので、少し関わり方が変えられるなと感じています。ずっと育ってきた場所なので、どんな状況になってもこのまちに住んでいいか、と思えるまちにしたいです。

池田さん
「今、ここの足場は大丈夫やろうか?」と確認しながらすすめている状況なので、 聞いていただけたことで再確認できてよかったです。